医療裁判の費用(1)

CapHerlock2010-04-05

【医療裁判の費用(1)】

【原告(患者)側 裁判費用の総額について】
 これはなかなか難しい。事案にもよるので、考えるたびに少しずつ変わる。異論がある方も多かろう。

1)ひとつの基準として500万円。これだけあれば、なんとか自由に動けるのだろう。 これ以下ですんだ原告は幸運ではなかろうか。
2)徹底的にやろうと思えば、800万円。
3)弁護士によっては、1千万円以上で泣いている人もいる。

※社会的闘争となる場合は、無料協力者が集まるので、文献代、交通費、主任弁護士事務所代、小額の活動費用等で200万円くらいか。

 この金額を賭けて、そこらじゅうに頭を下げまくって、多大な労力と生活の犠牲をはらって、賠償金50万円の訴訟でも闘うのが医療裁判。
 家族、親族、友人、職場、ご近所の人間関係の地図が書き変えられること必至。
 
 以下に、その内訳を解説する。

【法律相談】
無料〜1万円。


【弁護士代】
基本費用/150万円〜200万円。(受諾金30万円含む。一事案単位で最高裁まで)

成功報酬/被告より入金の10%。

※この基本料金と成功報酬の割合は、それぞれの事情や弁護士との相談によって異なる。たとえば、勝てそうな裁判ならば、基本費用を50万円くらいにして、成功報酬を20%するなどという場合がある。

証拠保全、初期調査費等/20〜40万円。(上記の弁護士代とは別途)

 証拠保全は、自分でやる方法もある。証拠保全の執行官の費用を調べたが、ノートを見ないと数字が出てこない。面倒なのでこのまま進むが、もう、じぇんじぇんたいしたことはない。せいぜい2〜3千円で済む。

 但し、複写代は実費。1枚10円〜20円。レントゲンなどの検査フィルムの複写は1枚あたり千円〜2000円。フィルムが多い場合は高額になる。
(証拠保全では、カルテは原本をとってくるのではなく、その複写をとってくることになる)
※個人情報開示でカルテを見ることは厳禁。改竄してくれと言っているようなもの。カルテを見るときは、証拠保全手続きで行ない、押しの強い弁護士を同行させるべし。
 医療裁判に慣れた弁護士ならば、現場で、どんなカルテや書類が足りないのかをチェックできる。
 証拠保全では、カメラマンを同行させる場合もある。別途請求されるとしたら、日当1万5千円〜3万円。最近は高性能のデジカメがあるので、弁護士が自分で撮る場合もある。


【医師意見書代(私的鑑定書代)】
★一筆、最低でも20万円〜30万円。
★追加意見書 10万円〜20万円。
★あるいは、一事案で最低50万円。

 病気が複合している場合、それぞれの争点で、それぞれの専門家の意見書が必要になる。当然、被告も反論するので一発ではすまない。どこまで意見書を撃てるかは金次第。場合によってはこちらも成功報酬を追加。


★非公式医師意見代/数千円〜3万円。内容によっては5万円くらいか。
 病気についてのいわゆるセカンド・オピニオンの料金は、東大病院で30分超60分まで42,000円。このほかに、診療情報提供書料、つまりカルテの送り出しが1万円以上かかる。
http://www.h.u-tokyo.ac.jp/patient/second.html

 これらの料金は、個人支払いではとても高いが、なんとも仕方のない部分がある。
 医師の年収を日割り計算や時給計算をしてみてほしい。診療で別に賃金をもらうサイドビジネスだとしても、単なる労賃の料金ではない。能力と経験と権威(肩書)の総合的な技術料金である。
 そして、私的鑑定書というのは、ほとんど医学論文を書くようなものであって、相応の時間が必要になるのだ。

 ちなみに、かつて、いわゆる特殊技能者であった僕の人件費(売値)は、日当3〜5万円であった。仕切り会社の見積書に日当7万円とか10万円とか書かれていても不思議はなかった。世の中そんなもの。でも、仕事がなければ、ただの馬鹿。


★医師意見書獲得のための必要経費
 50万円くらいは欲しい。こんなもの、あっと言う間になくなる。
 遠方の医師に依頼することが多いので、交通費も馬鹿にならない。沖縄から北海道まで全国行脚の範囲が、軍資金の量に関わってくる。
 出先では、手土産もいるし、同行の弁護士に飯も食わせなければならない。
 また、作戦会議では、弁護士と協力医が同席することも多い。
 医師の同席打ち合わせは、交通費別で日当3〜5万円。
 新幹線のグリーン料金は高いですぞ。お泊りは、それなりのランクですぞ。お車代もいりますね。(僕は、近鉄を利用したり、安いホテルでもお願いしたが)


【原告側の証人尋問代】
 これは、内容の性質から、謝礼は渡すべきではないでしょうが、日当や交通費程度は常識の範囲。ただ、たいてい意見書や陳述書を書いている人物と同じになるので、証人尋問代としてはあがらないでしょう。


【裁判所からの依頼による医師鑑定書代】
裁判所鑑定医師/60万円(原告と被告の折半で30万円ずつ)
裁判所鑑定医師追加質問/20万円〜30万円。(質問した側の負担)


【医学文献の複写代】
 提訴前の過誤調査が中心か。 10万円くらいはあるといい。
 検討項目が多岐にわたる場合は膨大になる。プロ(医者)なら3秒でわかることが、素人には3ヶ月かかると思ったほうがいい。 全てを疑い、全ての可能性を検討する。
 その複写は協力医師や弁護士にも渡すから、該当する書籍の複写作業となると半端ではない。


【カルテ(看護記録やフィルム類を含む)や書面などの複写代】
 弁護士事務所がやる場合が多いが、これは実費。1枚10円〜20円。
 原告、被告、裁判所の3者に加えて、協力医師にカルテを送ったりする複写が必要。

 レントゲンなどの検査フィルムの複写は1枚あたり千円〜2000円。これは、どこかの病院に依頼して行う。
 複写が高いので、フィルムを透過して見るシャーカステンと1千万画素の一眼レフカメラを購入したが、撮影画像でどこまで了解してもらえるのか、なんとも難しい部分は残る。

 ともかく、文献やカルテの複写作業は壮絶。丸1日コピー機の前に立っていることなど、あたりまえ。コピーの専門業者キンコーズを利用。
 カルテは、自動送りの複写設定ではほとんどやれない。小さな字でごにょごにょと書かれた端が切れてしまうことがあるし、サイズが違ったり折り込んであるものもある。そしてカルテには、検査票などが張り付けてあるから、一枚ずつめくって複写する。だから、1ページごとに確認する。
 文献だって、これぞと思われる本は、分厚くても全部複写する。本当は著作権上やってはいけない違法(全体の半分以下しか複写したら駄目)なことなのだが、そんなこと言っていられない。
 30万円くらいは必要。足りないかな。正直なところ、僕は二度とやりたくないと思った。一晩中、立ちっぱなしで複写して、朝方にスーツケースを引っ張って帰ることを何度も繰り返す。そして、帰ってから、順にそろえて、数枚ごとにパンチ穴をあけて、項目ごとにタックをつけてファイルに整理する。思い出しただけで吐き気がする。


【カルテ翻訳代】
 医学用語などの翻訳だが、通常は、どこかの日英翻訳会社が、医師にちらっと見せて修正する程度のもの。たいした翻訳ではない。提訴する段階では、原告のほうが正確に解読しているレベル。
 しかし、専門家にやらせるということが、形式として重視されることもあるようです。
 逆に言えば被告側による、原告への資金圧迫・兵糧攻めの手段でもある。分量にもよるが、40〜50万円くらい。 こういう翻訳を被告にやらせると、全部、原告側で点検しないといけなくなる。


【原告が常備する基礎的な医学書
 そんなもん、10万円分くらいは用意してあたりまえだろが。近所に国会図書館があるような人はいいだろうが、すぐ隣に県立図書館があっても間に合わない。但し、医学部のある大学付属図書館に自由に出入りできるなら、話は別。
 詳細は、別稿で書く。


【裁判所への印紙代】
 1億円請求で30万円余り。他に郵便切手がいる。
http://www1.odn.ne.jp/~ceu55990/insidai.html

 ここまで読んだ人は、このブログを書いている人はきっとお金持ちなのだろう、お金持ちの感覚で言っているのだろう、と思うかも知れないが、自慢ではないが、僕は時給950円のワーキングプアで、生活保護適用レベルの生活である。生活費以外で10万円を捻出しようとすると、どれほど途方もない絶望的な感覚に襲われることか。

 もっとも、僕は当事者ではない。支援者である。でも、ただの支援者ではない。私的な代理人である。それでも、断腸の思いで、自分の財布からの投資を相応に行っている。
 告白しよう。原告に預けられた金を節約しながら使っているうちに、いくら他人の財布だといっても、だんだんと、げっそりしてきた。そして、ついに、もうこれ以上、原告の金を使いたくなくなって、実は、攻撃を諦めたのは事実だ。金さえあれば、敵の天守閣を駆け登って攻撃できたかもしれないと思う。けれど、飛行機に乗って医師を説得しに行こうとは、もう思えなくなった。
 その事案は敗訴を覚悟したが、予想外に勝利を迎えることができた。全出費と賠償金額があまりに拮抗していて、もう考えるのも嫌で、いまだ正確な集計をしていない。

 そうです。お金持ち以外は、医療裁判はできません。それがこの国の現実です。
 でも、医療過誤裁判は増えている? 確かに裁判は増えているでしょう。でも、医療裁判ができた人は、いったい何%の話か。報道される数字のマジックに踊らされてはいけない。
 しかしながら、なんにでも例外はある。
 そもそも必要金額は事案内容にもよるのだが、次稿では貧乏人の戦闘方法に触れることにする。
 

【被告側の費用】(詳細は未調査)
 被告は、病院や医師・看護師などだが、実際は保険屋が受ける。

 保険料は、個人医院の場合は、年額1万円程度で億単位の保障。
 但し、病床数によっては数百万円。そこそこ大きな病院で、過誤をよく認める(示談にする)場合は、保険料が跳ね上がって経営を圧迫する。

 この医師損害賠償保険の適用で、1億円敗訴しても、被告病院自身は免責で支払うのは100万円で終わる。(保険の種類、疾患や科目によって賠償上限は異なる。産婦人科で3億円までか)

 弁護士は、損保会社の専属プロフェッショナル。医療過誤裁判しかやったことがないというような歴戦の強者がそろっている。彼らの費用は保険屋だと思うが詳細は不明。
 病院が国立県立など行政の場合は、それぞれの弁護士も参加。
 医師意見書代金や複写代金などの負担割合は不明。


【原告の裁判費用の公的扶助】
 法テラスの制度に変わったためか、30万円程度の少額の貸し付けで毎月1万円ずつとかの分割返済。適用される人は、生活保護が適用されるレベルの人。弁護士は、法テラス所属の弁護士が条件。離婚訴訟などの裁判向け。
 医療裁判には、微々たる額なので、現実問題として適用されないと考えて良いと思う。適用される人には、医療裁判は不可能。


【原告が、誤解しやすいこと】
 訴状では、通常、最大限の損害賠償金額でぶつける。逸失利益や慰謝料もどんとのせる。これで宣戦布告というわけだ。
 しかし、裁判所が認める上限は、はるかに少ない。
 判決で、訴状の請求金額の三割しか認められなかったとしても、それが完全勝利である場合も多い。
 だから、いくら自分の主張が正しいとしても、判決で勝ったとしても、請求金額が全部もらえると思ってはいけない。
 さらに、その金を当てにしていたら大変なことになる。もともと、圧倒的に不利な状況と条件で戦闘するのだから、勝利への道は極めて険しい。
 裁判費用は、ドブに捨てたつもりでいないと、勝っても納得がいかないことになる。