文献調査の方法

【文献調査の方法】

 過誤調査では、基本的には全てを疑ってゆくことになる。 単なる可能性という問題に限らず、素人には、除外すべき病気や事由がわからないという事情も加わる。

 全てを疑うということは、体温や脈拍の変化は何を意味するのかといったことから、全ての投薬を調べるのは当たり前。そして似た病気の病理学的な分野まで手を伸ばすことになる。病気の概観から的確な治療法とその予後。そして期待される医療水準。

 医者だって、はじめは本で勉強したのだ。同じ本を読めばいい。
 それでも、悲しいかなプロとアマチュアとでは雲泥の差がある。素人には「臨床の常識」がわからないためだと思う。そして、そんなことは本には書かれていない。基礎の積み上げと実地の臨床から得るものだからだろう。

 さて。医学の一般常識系と専門医系の二本立てで理解を深める。

1)カルテを読むときは、医学辞典やカルテ略語辞典が必要になる。最近は便利なのがたくさん出ている。特にナース向けはわかりやすくて注目。

2)医者の虎の巻である「今日の治療指針」や「今日の治療薬」は常備必須。裁判で叩くときは、これに照準をさだめるのが定石。
 CD−ROM「今日の診療」などがあれば、非常に効率が良いが高い。

3)基本的知識は、医学生の教科書レベルのものを購入。(医学書院の「標準」シリーズなど。ちょっと高いが内科は朝倉書店の「内科学」

4)国会図書館雑誌論文検索で、関係しそうな論文をさがし、複写郵送サービスでそろえる。5千円分、1万円分と金額で目途を立てて軒並み発注する。
http://opac.ndl.go.jp/index.html
 同じ病状や治療、同じ事例は必ずある。ズバリの文献が必ずある。

5)4)は医学論文なので、読んでもよくわからないことが多い。しかし、それを読み解いてゆく。
 そのために、それぞれの論文や本から、引用文献であげられている論文や成書のいくつかを、芋づる式に入手して調べてゆく。

6)芋づる式に調べるうちに、該当する病気に関する詳しい本があがってくる。これを入手する。
 本をまるごと複写依頼することはできないので、地元の図書館で取り寄せる。図書館は日本全国つながっている。国会図書館にしかない本の場合は、取り寄せた地元の図書館から持ち出すことはできないが、近隣の図書館のものなら貸し出し可能。しかし、大学付属図書館の場合、取り寄せができないことが多い。管轄が違うのだ。

 そのように読み込んでいくと、はじめの「今日の治療指針」も、意味がだんだんわかってくるようになる。
 

 以上でなんとかなる。というか、なんとかするしかない。
 医学部のある大学の図書館に通いつめる原告も多いが、遠方にあったり部外者お断りであったりして、なかなか困難。たいていは黙って関係者のような顔をして使う。インターネットが使えない頃は、みなさん、この医学部図書館で必死になってがんばった。

 それでも、まだよくわからないことも多いだろう。所詮は素人なのだ。正確には断言できない。しかし、ここまでくれば、弁護士も医師もきっと説得できるだろう。


 困るのが法律関係だ。医療裁判の判例だ。このスマートな検索方法が僕にはわからない。何故だかよくわからないが、国会図書館の雑誌論文検索にひっかかるものは限られている。タイトルやキーワードのせいだろう。参考程度の判例は入手できるが。
 ある事案で、しつこく検索してどっと取り寄せたことがある。これでおよその概観はできるだろうと思っていたら、弁護士は、そのものズバリの判例を持ってきた。それは、僕の検索ではヒットしなかったものだった。