協力医師(1)

【協力医師(1)】

 なんとも、うんざりする話。

 まず、弁護士に相談すると、弁護士は友人知人のツテで、ちょいと医師に相談する。
 その医師の意見を聞いて、過誤か否か、勝てそうか否かを決める。
 弁護士さんといえども、そう何人も専門医のお友達がいるわけではないので、この判断は怪しい。
 この調査の段階で多少の金を取る弁護士は、幾分広い医師の人脈があると思ってよいのかもしれない。にしても、その人脈の範囲でのこと。疑えばきりがない。
 ともかく、これで提訴するかどうかを決める。
 このときの医師が、裁判で意見書を書いてくれるかどうかは、また別の話。たいていは無理。

 意見書を書いてくれる医師(私的鑑定)は、別途つかまえなければならない。裁判では、医師の意見のみが価値を持つ。

 期待の医療事故調査会は、半年から1年待ち。
 差があるのは、専門科目ごとに人が違い、順番待ちや医師の数が異なるからだろう。ここですら、組織として意見するというよりは、志を持った医師の集合体で、弁護士個人の人脈よりは多いという程度ではなかろうか。
 但し、医学に照らして公平に見て、どうなのかを判断するという趣旨であるので、真実を知りたいという患者にとっては良いと思う。だが、勝ちにゆく裁判という意味では、心もとない。

 僕が若干消極的な評価をするのは、鑑定を断わられた事例を聞いているからだ。なんで断わるのかと怒る人もいるだろうが、どうしようもない部分がある。
 専門分野が同じ医者同士は、それなりに仲良しである。地域の中核病院は、患者の紹介や医師の派遣で、お客様関係がある。
 そんな案件を、公平性を欠くという理由で除外すれば、断わる事例も出てくる。つまりは、その程度の独立性であるということ。残念ながら、現状ではこれは打破できないらしい。
 それでも処理件数はかなりのものだ。また、ひとつの事件を複数の医師が検討するなどという活動は素晴らしいものだと思う。
http://www.geocities.jp/meconett/judgment/judgment05.htm

 医療事故情報センターもひとつのメッカとして精力的な活動をしているが、僕はここにも不満がある。僕が関わった訴訟は、ここが「絶対に負ける」と断わった事件なのだ。結果は勝訴的和解。
 まあ、なにをもって勝訴的とするかはそれぞれだろうが、裁判所が提示した和解金額は原告の弁護士も驚いた。逆にいえば、本当は誰にも裁判の行方はわからないということでもある。
http://www3.ocn.ne.jp/~mmic/

 意見書を書くという作業は、そう簡単ではない。
 医師によっては、週1の当直で、24時間や36時間の連続勤務をしている人もいる。それでもまだ「ゆとりのある勤務」だろう。それがどれほどキツイ仕事か、自分に置き換えて考えて見れば良い。病院や大学の仕事をしながら意見書を書くという作業は、いくら自分の知っていることでも、簡単ではない。
 ただの論述ではない。説得し論戦する論述であり、裏づけの文献も集めなければならない。うっかり間違ったことを書けば、被告から徹底攻撃される。大学の仕事を数日間休み、ホテルに缶詰になって取り組んだ医師さえいる。
 会ったこともない、診たこともない患者のことを、カルテ上だけで事後評価してあれこれ書くより、目の前の自分の患者に集中したほうが良いと考えるのも当然である。

 そして、肝心なことは、過誤を見つけるという強い姿勢がなければ、過誤は見つからないということ。これは、協力医師の絶対条件となる。その上で、その過誤の大小と責任のあり方を検討すべきだと思う。 過ぎた人生には、全て、不可抗力がついてまわるものだ。
 医療過誤の調査で生計を立てることは、いろいろな意味で難しい。
 医療過誤の調査で生計を立てるというより、医療過誤で患者側に立ったら、医師として生活できなくなる、といったほうが正確かも知れない。

 それに近いことをやっているのは、医薬ビジランスセンターの濱六郎医師。この人は訴訟に慣れている。批判もあるが、自身の信じる正義の主張をしている。実態は、医療過誤の調査を専門にしているというよりは、なにかと有名なので、相談や依頼があるという形か。医療事故調査会にも参加しているのかも知れないが、そのあたりは僕は知らない。
 http://www.npojip.org/index.html
 但し、受付は弁護士のみ。患者や家族とは直接は話をしない。
 患者や家族と直接話をしない形は、医療事故調査会も同じ。
 混乱した患者に、ぎっしり詰まった仕事を妨害されることを嫌うのだろうし、金銭的な支払いを安心して受けたいということもあるだろう。
 推定基本料50万円。順番待ちは半年くらいか。

 他人や組織と闘うからには、それなりの自律が必要になる。それは、謙虚さや冷静さ、不屈の執念でもあるだろう。その姿勢がない人とは、いくら正義があっても一緒には闘えない。あなたひとりでやりなさいという話になる。

 協力医師に相談する場合は、カルテを入手していることが最低条件。