殺人犯 神田司ブログの意味(2)

殺人犯神田司ブログの意味(2)
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 神田司ブログの場合は、刑事訴訟法の縛りがあった。弁護士とも相談して、その範囲でなんとかやっていたようだ。
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 刑事訴訟法の縛りとは、先に改正された部分。

 第二百八十一条の三  弁護人は、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等(複製その他証拠の全部又は一部をそのまま記録した物及び書面をいう。以下同じ。)を適正に管理し、その保管をみだりに他人にゆだねてはならない。

 第二百八十一条の四  被告人若しくは弁護人(第四百四十条に規定する弁護人を含む。)又はこれらであつた者は、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、次に掲げる手続又はその準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供してはならない。(以下略)
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「電気通信回線」とは、もちろん、FAXやインターネットを指している。
 検察官の持っている証拠は、「審理の準備のため」に見せるのだから、公開してはいけないと書いてある。

 ここでの問題のひとつは、「審判にインターネットが影響する」という意味にとれること。インターネットは世論として理解される。先に書いた「書面公開のフライング」でも同じこと。
 なんで、そんなことが訴訟妨害になるのかね。僕は法律を知らないのだが、そう言えるとするなら、それは被告人の意思の尊重という意味合いで、公表不可の話であるべきはないだろう。

 もうひとつの問題は、「法廷にいまだ提出されていない検察の証拠」ということだ。
 この前提に、犯罪の証拠は、全て検察がもっているという事情がある。そして、なんでもかんでも弁護人に見せるわけではない。有罪に利用できるごく一部の証拠だけである。その証拠だけで、弁護士は裁判を闘うのである。
 さて。みなさん。ここで、変だと思うでしょう。「無罪の証拠があっても、検察は見せない」ということだからです。

 そして、裁判におけるアンタッチャブル(触れることのできないもの)は、その検察のもっている書面のうちでも、特に、警察の送検書類です。これは弁護士に見せても、裁判で使うことは検察が拒否します。弁護士は、警察の送検書類に疑義をはさむことができないのです。検察が調書を作り直しているにしても、常識で考えて少しおかしくはないですか。
 当然、医療過誤裁判でも、警察がからむと難航する。

 冤罪事件では、警察の調書が事実と違っていることが通例です。僕自身も、ある刑事事件の弁護団会議で、目の前で体験しました。
 机の上に警察の作った犯罪の検証書類がある。これが違っている。しかし、被告人側弁護士は、「ここが違っている」と法廷で直接的に論じることはできなかったのです。検察が、法廷への提出を拒否(不同意)するからです。それは犯罪となるか否かの犯行の中心的部分でした。んな馬鹿な。でも、これが裁判です。
 
 見方を変えれば、弁護士が冤罪かそうでないかを、どうやって知るのかという質問の答えのひとつが、この非公開書類です。そこで冤罪の確信をもったというわけです。ところが、それは非公開文書なので、世間に応援を求めるには、別の方法で冤罪の理由を説明しないといけません。


 神田司ブログに話を戻そう。
 結果的には、法廷で、検察が絶妙のタイミングで神田司のブログに触れ、犯人に反省の余地がないことを強調する証拠となった。(正式に証拠提出されたかどうかは知らない)

 しかしながら、神田司ブログは、本当に貴重なものだった。見事な法廷外闘争だったと思う。被害者遺族の心情を逆撫でするような内容ではあったが、本当の話が書かれていたと僕は思う。
 神田は、本当のことを話したことで、なんらかの満足を得たのではないかと思う。被害者にとっては、犯人が語るどんな言葉も聞く耳を持たないだろうが、神田は真実を責任もって話したつもりなのだろうと思う。それは遺族が最も知りたいことでもあっただろう。

 そして、神田司は、一審で死刑判決を受け入れた。控訴を取り下げた。彼は自分から死刑を選んだとも言える。二審で無期刑になる可能性は少なくなかったのではないか。
 神田司のブログに寄せられた批難のコメントは、神田の元に届けられた。彼のブログを取り上げた他の人のブログやサイトも、おそらくはプリントアウトからでしょう、彼は読んでいた。それが彼に影響を与えた部分はあったろうか。

 神田司ブログの管理人は、とてつもない重圧に耐えながらよくがんばったと思う。3人の犯人の内のひとりの言い分ではあったが、あれを読まなければ、事件の姿は見えてこなかったと思う。
 犯人を手伝って、犯人からの文書をWEBで公開した管理人の勇気を称えたいと思う。
 そして証人尋問速記録の全面公開は、実に見事であった。それでこそ、裁判公開だ。

 念のため、当方でも刑事弁護専門の弁護士に確認したところ、「証人尋問速記録の公開は問題がない」とのこと。

 僕は、管理人が、どこの誰だか、どんな人だかは知らない。ただ、パソコンの操作に慣れていない人であるのは、確かなようだった。本当によくやった。よくがんばった。敵側ながら、天晴れである。裁判史に記録されるべき出来事だったと思う。


 これは、裁判の全てが決して真実とは限らない故の出来事、裁判が実質的には公開されていない故の出来事であったと思う。


磯谷利恵さんの御遺族のサイト(署名続行中)
http://www2.odn.ne.jp/rie_isogai/
人口32万人台の都市は、川越市柏市富山市高知市
人口28〜32万人の都市は、函館市青森市盛岡市福島市前橋市市原市春日井市明石市宮崎市那覇市。(2005年理科年表調べ)

被害者 故磯谷利恵さんのブログなごやんの食道楽記」
http://kuishinbounagoyan.blog96.fc2.com/


一審にて神田司死刑確定。
一審にて堀慶末死刑、川岸健治無期懲役。両者は控訴し、現在は公判前整理手続き中。(川岸は自首しており、殺人に直接は手を下さなかった)

 求刑死刑で死刑判決となったのは、世論の圧力ではないか。具体的には、遺族が行った死刑嘆願30万人署名の威力ではないか。裁判官は「世論」を加味したのではなかろうかと思う。