カルテの任意開示などするな

患者によるカルテ(及び検査表や看護記録など)の閲覧は、医療側の襟を質すシステムであるし、患者本位の医療という考え方のひとつの表れで歓迎すべきことなのですが、カルテには患者の心理的側面への対処の記述があって、それが現在進行形でオープンにされることは、配慮を無意味あるいは害悪としてしまうことがあると思います。
 しかし、現在進行形で患者が保存するならば、改ざんができないという利点はあります。でも、進行形で完全保存するシステムが整わないうちは無駄です。

 
 数年前から、カルテの任意開示が可能になりました。 しかし、これはとんでもない事態を起しています。患者がカルテ開示を求めるときは、そもそも医療不信から過誤を疑ったときなのですが、開示請求をしてから実際の閲覧や複写まで、1ヶ月以上も待たされることが多いようなのです。事務の手間の問題もあるでしょうが、過誤の隠蔽の猶予も自由に作れるわけで、任意開示を求めた時点で、病院は裁判対策を講じることができる。
 患者は、確信が持てるまで裁判にはしたくないという善意の気持ちや、医師に敵対行為と受け取られたくない気持ちから、弁護士を通してではなく、自身による任意請求をするのですが、それは迷宮入りへの第一歩となります。
 裁判所による証拠保全でさえ、病院に30分前に予告電話を入れることが批判され、現場で待たされることが非難されています。だから、医療事件に慣れた押しの強い弁護士が求められている。医療費の請求明細(レセプト)も、病院の合意をとることが問題となっています。改ざんの猶予を作らせないためです。

 それに、一般の人がカルテを見ても、書かれた意味などわかりません。同業の医師でさえ、どこまでわかるか怪しいものです。仮に、過誤をすぐに見つけたとしても、その過誤がなかったらどこまで結果が違っていたかは、即座には言い切れません。賠償責任の問題となれば、なおさらです。そして、過誤を見つけたとしても、ほとんどの医師は沈黙します。
 個人情報保護法によるカルテの任意開示は、「百害あって一利なし」の現状です。