裁判は3回できるというのは、嘘


 医療裁判では、原告は裁判準備が不十分なまま突入することが多く、意見医師の確保や被告の反論に対しての有効な攻撃が即座にできず、被告に有利な論理展開に翻弄されて、敗訴することが多いのではないかと思う。

 一審が控訴審(高裁)で逆転されることは新証拠がなければ難しい。本来は、逆転は例外なのであって、逆転するということは新証拠があったということ。つまり、その新証拠は一審に間に合わなかったということ。それは原告の準備不足を意味する。

 私が手がけた事案では、名古屋の医療事故調査センターには、以前に本訴を断ったため、以後の手助けはしないと言われた。困ったものだが、しようがないといえばしようがない。八尾病院が中心となっている医療事故調査会は半年以上の待ちであった。必要性に気づいたときには遅かった。石川弁護士は、ご存じのように手一杯で、鑑定医師の紹介はしない旨の丁重な返事を頂いた。日本全国各都道府県の弁護士の医療過誤研究会を順に電話したが全滅。論文から専門を割り出した医師は50名ほどにのぼる。これは弁護士事務所から打診した。そして全滅。
 インターネット上で、ひとりつかまえた。紹介をもらって直接口説きに行った医師は3人いた。そして、ひとりを強引にヒットさせた。最初は断られた。でも天が味方した。
 裁判で原告が意見医師を確保できたのは、こちらの執念であるが、実のところ全くの偶然の重なりにすぎない。この偶然がなければ、早々に敗訴が確定していた。
 意見医師をつかまえるのは、大変なことなのである。

 さて、控訴審は、基本的には裁判のやり直しではなく補足にすぎない。だから結審は早い。そして原審の結果は尊重される。そのために逆転判決が出るとニュースになる。そして控訴審において争点を変えることは後出しジャンケンのごとくルール違反となる。さらに上告審(最高裁)では法律の解釈が中心となり一般的には事実が争われることはない。だから、主戦場は一審なのである。

 控訴審とは、一審の延長戦なのであって、2回目の裁判ではない。 2回目の裁判というのは、「再審」のことである。※似たようなものなのだが、滅多にない。

 近年は裁判の迅速化が進められている。相当程度にまで準備をしておかないと、時間に追われて敗訴する。だから、医療裁判の迅速化は必ずしも原告に有利なわけではない。

 裁判所は医療過誤を検討するわけではない。はじめに判決ありきで、双方の言い分を聞きながら辻褄を合わせるだけである。事実や解釈を検討するのは原告だけで、被告はとにかく逃げまくる。
 この「はじめに判決ありき」は、もちろん「医者は悪くない。病気が悪い」という話である。原告の敵は被告ではなく、このような裁判官なのだと思う。しかし、現状ではこの民事法廷で闘うしかない。
 
 多々ある冤罪も、この裁判官の素朴な、警察・検察への信頼によって生まれる。