弁護士が断るとき(2)馬鹿野郎原告

アコースティック・ギター1本で1トラック録音・演奏/告井延隆さん
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【弁護士が断るとき(2)馬鹿野郎原告 】

 弁護士も客を選ぶ。あたりまえの話。
 M弁護士などは、「一見(いちげん)さんお断り」だ。なんと人脈だけで毎日のお仕事が成り立つけっこうな商売。
 というより、扱いに困る依頼者が少なくないのだ。
 弁護士が受けられない相談者は、大きく言って2パターン。

1)感情的な人は、駄目。
 当事者が、ぐちゃぐちゃに混乱することは、いたしかたない。

 ある弁護士自身が交通事故にあった。怒りまくって、お前も協力しろと知人の弁護士に頼んできた。でも、それは無理なケースだった。被害を証明する診断書がないケース。「あなた、いつも、それ説明してるじゃないですか」と言っても、「だって、痛いんだもん!」
 事例の是非はともかく、弁護士だって、自分のことになると見境がなくなる。そんなもんです。

 しかし、あまりに感情的な人は、ご遠慮願いたいのが人情。法律相談よりもカウンセリングが先。

 医療過誤の話をしているのに、途中で「あの医者は、なまいきだ」「病院にジーパンはいてきやがる」「飯がまずい」などと、関係ない話に流れがちになる。概してそういう病院の雰囲気というのは、治療態度に現れるのも確かだが、まさか裁判の争点にするわけにはいかない。

 まあ。たいていの相談者が、弁護士を訪ねるころには消耗しきって、精神的におかしくなっている。ぼーっとしてるわりには神経過敏で、頭のなかは堂々巡り。ちょっとした冗談でも注意しないと、マジで受け取る。みんな、極めてナイーブなのだ。
 労組のやってる労働相談でも、相談者の半分は神経症鬱病になっている。

2)軟弱な人は、駄目。

 裁判は、金だ。これを理解しているのはいいが、これを逆手にとって因縁をつける奴がいる。チンピラヤー公みたいなもんだ。クレーマーと呼ぶときもある。
「弁護士さんの腕で、なんとか金とってくださいよ」
 でも、相手が悪くないのに、そんなのは無理。
「そこをなんとか。わかるでしょ。ほら」
 。。。恐喝せよというのか(;^_^A
 このバリエーションは、いろいろある。

 軟弱な原告の場合、金の匂いをかぎつけて寄ってきたチンピラが、原告をそそのかす。それもそうだと、原告も「絵図」に乗っかる。下手をすると、弁護士が脅迫される。
 こういうのは、チンピラとは限らない。良かれと思ってるスジもあるんだろうが、タカリをやるのは、家族、親族、友人なのだ。

 僕も、おかしなことになっている話を聞いたことがある。聞いていると、どうも辻褄が合わない。「それ、後ろで糸引いてる奴がいる」と僕が言ったら、後日、当たりだったとのこと。

 だから、きちんとした、しっかりした人でないと裁判は闘えない。弁護士も受けたがらない。
 しっかりした人の場合、まわりの人間関係には「おかしな人」がいないことが多い。いたとしても、本人が跳ねのけることができる。

 また、途中で、「やっぱり、やめた」なんてことになったら、面倒でしようがない。
「じゃあ、あれだけ必死で頼んだ意見医師になんていうんだよぉ」ってこと。もちろん、取り下げるのは原告の自由だし、実際、提訴した原告自身が死亡すると、その相続者は取り下げるのが一般的。
 だけど、ほいほいブレられては、責任もって本腰が入れられないのだ。

◇  ◇  ◇

 だいたい、「俺は客だ」という権利意識が高すぎる馬鹿や評論家ごっこしてる奴が多すぎる。言わなきゃ損だと考えたり、自分のストレス発散のために、ここぞとばかり罵りまくる。そんなブチ殺して野郎かという奴がいる。よく考えてくれ。客に権利もなにもあるわけがないだろう。そんなに嫌なら、よそへゆけということだ。

 ただ、病院を選ぶことは、現実的には難しい。終わった治療をタイムスリップしてやりなおすことはできない。「すまん、間違えたわ」では、すまない。そこが特殊なところ。
 しかし、患者のほうが偉いと考えたり、患者と医師が対等だなどと考えることはおかしい。
「患者と医師」は「生徒と先生」の関係なのだ。