弁護士が断るとき(1)勝率と負担


【弁護士が断るとき(1)勝率と負担 】
【医療事件の場合】
 民事裁判は、賠償金の争奪戦である。 真実など関係がない。「真実」は利用するだけ。
 双方が自分にとって「有利な真実」で闘う。
「有利な真実」とは、「部分的には真実」ということなのだが、嘘もばれなければ「真実」となる。
 だから、「裁判をすると、さらに傷つきますよ」と、弁護士は念を押す。裁判では、被告は一斉に嘘つきになると考えて間違いはないのだ。

 賠償金の争奪戦なのだから、重要なのは金である。
 そこで、裁判にかかる経費予測と勝訴予測は重要事項になる。
 医療裁判は、医師意見書に経費がかかり、勝敗の見込みがたちにくい。
 しかしながら、病院側は、敗訴の見込みが立つならば闘わない。
 被告は、示談交渉に走り、提訴の取り下げを願う。
 損保弁護士は、裁判よりも示談件数のほうが圧倒的に多い。 正確な数字はわからないが、100件の示談に対し、数件の裁判という割合ではないかと思う。(示談では、第三者を間に立てる調停という形もある)
 ここで、あっ、と気付いたあなたは賢い。
 これらの確定的な医療過誤事件は、実は裁判になっていないのです。
 そして、その確定的な医療過誤事件については、示談金を払うかわりに「誰にもしゃべるな。なかったことにする」という条件がつくのである。

 もちろん、示談には、費用対効果の問題もあるかもしれない。
 被告にとっては、いくら勝てそうな裁判でも、何年も裁判を戦うより、ある程度の金額で示談にしたほうが効率が良い。 ひとりの弁護士がまともに取り組める処理件数は限られている。
 でも、これは考えにくいようにも思う。
 示談か裁判かを決めるのは、日本医師会の損保の審議会であって、そこに複数の保険会社と弁護士事務所が組織されているのだから、戦闘員(弁護士)には困りにくいのではないかと。
 さあ。ここでも注意して頂きたい。損保の審議会が検討するのは、「勝てるか負けるか」である。オーバーラップしているにしても、医療過誤があったかどうかではない。


 さて。本題。
 患者や家族が、弁護士に相談すると、断られることがよくある。その理由は、いくつかある。

1)患者側の勝率の問題。
 金の問題なのだから、弁護士は、勝てそうもない裁判を受けない。
 これは、弁護士としての善意でもある。「あんた、たぶん損するよ」というわけである。
 患者としては、「お前になんか頼んでない。俺は裁判所に判断してくれとゆうとるのだ」と言いたくもなる。これには、裁判への誤解がある。裁判所が証拠を探すわけではないのだ。裁判所がやるのは「証拠」を「調べ」るだけである。
 でも、その勝率を判断したのは、間違いなくその弁護士である。
 その実態は、別稿で書いたが、根拠は「おともだちの医者にちょっと聞いてみたの」である。
 弁護士は、その予測を丁寧に説明しなければならないが、面倒なので、全ての弁護士が丁寧にやるわけではない。 そもそも、どこまでわかっているかは、はなはだ怪しい。


2)患者側の負担の問題。
 弁護士は、医師の人脈を持っていないと闘えない。持っていない場合は捜索しないといけない。さらに、内容を知るためには、自分も多少は医学のお勉強しないといけない。これ、大変。
 なので、「僕、できましぇん」と断る弁護士が大変に多い。
 そんな手間のかかる仕事は、やりたくないのである。しかも、勝つも負けるも運次第となれば、成功報酬もあてにはできない。年収3千万円を確保するためには、そんな面倒な事件はやっていられない。

 医療事件の弁護士代がほかの事件に比べて高いのは、その手間せい。
 もっとも、ちゃんと手間をかけてくれるなら文句はないが、まともにやる弁護士はとても少ない。

 はて。裁判所は、いったい誰のためのものか。
 真実を知りたくて、責任追及をしたくて、訴えたくても弁護士がいなくて訴えることができない。 弁護士がいないままでは、訴えても闘うことができない。 なにもやらない弁護士に頭にきて、本人訴訟を行う人が医療過誤でもたまにいる。そういう状況である。

 結局、あんたら、儲かりそうな事件だけで、まわしてるだけじゃないか。
 僕が裁判ビジネスを非難するのは、こういう意味である。

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 でも、原告が欲しいのは真実と謝罪。
 患者が裁判を起こす理由は、「真実が知りたい」が第一優先。二番目は真実にそった謝罪。三番目に現実的な責任をとる意味での賠償金。この順。
 3番目の賠償金は、基本的には損保の問題。 つまり、損保の問題が解決すれば、医療事件に裁判など必要ないのだ。

 だから、間違えたとき失敗したときに謝れば、裁判は確実に減る。アメリカでは、各州で「アイムソーリー法」が成立し、医療界では「謝罪(I'm sorry)運動」があって、裁判が減ったという統計がある。
 「謝罪(I'm sorry)運動支援サイト「Sorry Works!」(英語)
 http://www.sorryworks.net/
医療事故:真実説明・謝罪普及プロジェクト
 http://www.stop-medical-accident.net/html/manual_html.htm
 まあ、謝ればいいってもんじゃあないが。

 実際に、僕が原告に直接確認したこんな事例がある。
 患者の家族が、病院に疑問を質問しただけで、病院の弁護士が金を包んで自宅に飛んできた。   それで患者の家族は、「は? その金は何? ちょっと、おかしいんじゃないか? もしかして、(過誤を)やったのか? それを説明もせず、本人が謝りもせず、いきなり金で解決しようというわけ? おいおい。人を馬鹿にするのもいい加減にせい。いつ、金をくれ、なんて言った?」となって、裁判に突入した。
 その患者は、裁判にする気なんかじぇんじぇんなかったのである。被告病院と弁護士の意思疎通のミスである。弁護士の話し方も悪かったのだろう。それで、患者とその家族を怒らせたのである。

 だが、この問題が難しいのは、医師が殺人ライセンスをもっていることだ。安楽死や臓器移植(死亡判定の問題)もからんでくる。刑事裁判も民事裁判も全てを免責するわけにはいかない。その線引きをどう考えるかがなんとも難しい。なぜ、医師の免責方法を考えるかというと、真実が知りたいからである。事案に証言する医師は、完全に保護あるいは優遇されないと、真実を言わないからである。さらに、この「真実」自身にも医学臨床特有の難題がある。これについては、また今度。


★このテスト用ブログでは、医療過誤シリーズをあと2週間ほど続ける予定です。バカ話のようなものですが、僕自身が人生を投入して得た公共情報のひとつだと考えるからです。
 労働問題は、気がむいたら書きます。神秘学や芸術論はここではやめておきます。エロ話も自信がありますがここでは書きません。
 革命情勢は、何かと問題が大きくなるので自粛します。
 そして、テスト目的を終了したら閉鎖します。