医療裁判の準備

 提訴前にご注意いただきたいのは、「弁護士による調査」は、「ちょっと知り合いの医者に聞いてみる」だけのことです。3分聞くのに、数カ月は平気でほったらかしにします。弁護士に期待をしないでください。彼らはなにもやりません。動かすのは、依頼者の役目です。

 誤解しないでいただきたいのは、裁判所は何も調べないということです。
 裁判所は、原告被告の双方から出た主張を天秤にかけるのが仕事です。それは、どっちがうまく説得力を持って主張しているかということで、真実とは関係がありません。

 民事裁判は、賠償金の争奪戦です。相手の医者など関係ありません。敵は損保です。
 刑事裁判は、患者は関係ありません。警察と検察が「被告人を有罪にするため」に調査しますが、これまた患者が知りたい真実とは関係ありません。
 裁判を起こしたからには、原告自身が、警察と検察の仕事をするのだと考えて下さい。しかし、原告には、権力は何もありません。裁判とは、そういう闘いです。

 まずは、証拠保全をしたカルテ(レセプト・検査票・看護記録など)を再び全複写して、自分用を1冊持ってください。
 提訴前には、1年くらいは密に準備してください。そうしないと、裁判中に時間切れになります。

 薬の基本定番は「今日の治療薬」インタビューフォーム。インタビューフォームは、WEB上にあることもある。特に血中濃度(薬物動態)のグラフに注意。

 臨床知識の基本定番は、「今日の治療指針

 医学論文は、国会図書館検索OPAC(雑誌論文検索)これで、合致した事例がみつからない場合は、かなり苦戦する。ここで見つけた資料が論拠の命綱(羅針盤)になります。何がなんでも探し出して下さい。 同じケースが必ずあります。もちろん、見つかっても苦戦しますし、訴訟での直接の有効性が大きいわけではありません。

 過誤疑惑の項目が出揃ったら、再度、OPACで、詳細に迫ります。
 関係する医学書をどんどん読み込みます。医学辞典、カルテ用語辞典などは必須です。

 そうして、事実関係がおよそ読めたら、裁判で武器で一番の武器にするもの=医学教科書に戻ります。
 それが「今日の治療指針」です。医学生の使う教科書も有効です。それが、「一般的な医療水準」ということです。一般水準以上の医療を要求しても、敗訴します。

 裁判での戦闘は、繰り返し作戦と物量作戦です。その提出物が、上記の調査で出揃うことになります。
 そうして、基礎ができました。
 次は、意見医師です。これが裁判の決定打となります。
 原告は、日本中を捜索することになります。簡単なことではありません。
 敵は、何度も医療裁判をやっているベテランの弁護士ですから、それまでの貸し借りがあって意見医師の人脈は豊富です。対抗する素人には、ほとんど絶望的な戦況です。
 しかし、医療の荒廃を憂う医師が、どこかに必ずいます。見つけて下さい。

 裁判費用は、400万円くらいは捨て金として用意しておいてください。
 なに。高級車を1台買ったと思えば、どうということはありません。徹底してやるには、500万円は欲しい。全部やってくれる弁護士の場合は、800万円くらいの人もいます。いい加減な仕事しかできないのに、一千万円くらいかかる弁護士もいます。
 もちろん、200万円くらいで安く済む場合もあります。
 でも、途中で金がなくなって、鑑定医師を探したり、意見書を書いてもらったりすることができなくなるのは、無念です。覚悟をお決めください。

 そして、裁判は、勝つも負けるも運しだいです。
 しかし、裁判は、意地でやるものです。執念で、勝ちにゆくものです。
 上述のことを毎日行うのは、実は大変なことです。生活は一変します。しかも、周囲からは、白い目で見られます。まず、理解者はいないと思ってください。誹謗中傷にさらされます。社会と闘うことは、そういうことです。
 人生を投げ打つ覚悟をしてください。結果的に、そうなります。医療裁判は、孤軍奮闘の闘いになります。心よりご健闘をお祈り申し上げます。

 これができない人は、医療裁判などやめてください。諦めて下さい。無理です。残念ながら、現状はそうなっています。弁護士や医者、裁判所に金をやるだけになります。
 弁護士まかせで良いという人は、金さえあれば、それも良いでしょう。それで納得できるなら、それも良い。裁判をやったことで、なんらかの医療改革を推し進めることにはなるでしょう。