寺西和史裁判官の本

 旭川地方裁判所長が、1997年10月8日、同地方裁判所所属の寺西和史判事補に対し、注意処分を行ったことが明らかとなった。12月17日付朝日新聞によれば、同判事補が10月2日付朝日新聞『声』欄に寄稿した投書が、「令状裁判事務に携わる裁判官が適正に審査の職務を果たしていないと非難し、裁判官は信用に値しないと論じるものである。(中略)このような投書を行うことは、著しく妥当を欠き裁判官としてふさわしくない」ということを理由とする処分である。
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朝日新聞への寺西和史氏の投書内容】
法制審議会が組織的犯罪対策法要綱骨子を法務大臣に答申した。団体概念のあいまいさ、資金洗浄規制など問題が多いのだが、ここでは、盗聴捜査についてのみ触れる。

 裁判官の発付する令状に基づいて通信傍受が行われるのだから、盗聴の乱用の心配はないという人もいる。

 しかし、裁判官の令状審査の実態に多少なりとも触れる機会のある身としては、裁判官による令状審査が人権擁護のとりでになるとは、とても思えない。

 令状に関しては、ほとんど、検察官、警察官の言いなりに発付されているというのが現実だ。それを、検察官、警察官の令状請求自体が適切に行われている結果だと言う人もいる。

 しかし、現行法上は盗聴捜査を認める令状は存在せず、盗聴捜査は違法であるというのが、刑事訴訟法学者の圧倒的多数説であるにもかかわらず、電話盗聴を認める検証許可状が発付され、それが複数の地裁、高裁の判決で合憲・合法だと言い放たれている現実をみると、とてもそうだとは思えないのである。

 通信の秘密、プライバシー権表現の自由という重要な人権にかかわる盗聴令状の審査を、このような裁判官にゆだねて本当に大丈夫だと思いますか?
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 アクアリウムの世界には、水槽のバクテリア環境を作る方法のひとつとして、「パイロットフィッシュ」という考え方がある。

 パイロットフィッシュという名前の魚があるわけではなく、「水槽の試運転に使う」役割として呼び名である。
 たいていは、アカヒレのような安くて丈夫な魚が使われる。野生種を好む人もいるようだ。そのとき、その魚をパイロットフィッシュと呼ぶ。

 新しい水槽でパイロットフィッシュはどんどん死んでゆき、最後の1匹2匹が生き残ったとき、水を浄化するバクテリア環境が出来上がった頃となる。
 それから、飼いたい熱帯魚を水槽に入れれば、それは死なない。

 ふと。僕らは、パイロットフィッシュではないかと思う。

 理想の社会を築くために、まず、過酷な荒野で何人かの人が生活する。その闘いによって社会は少しずつ住み良くなっていく。彼らは、ひとりふたりと力尽きる。この先鋒隊がみんな死んだ頃、その土地はとても住みやすくなっている。もう、誰も死なない。

 このとき、裁判は、いわば水質試験紙ではなかろうかと考えてみる。